「胃ろうを作りますか?」
そう聞かれても、家族はすぐに判断できないと思います。
そもそも胃ろうが何なのか、作った後の生活がどう変わるのか、十分に理解できないまま話が進むことも多い。
現場でも、医師の説明を聞いて「先生が言うなら」と同意しているご家族を見たことがあります。
でも、作ったあとに「これでよかったのかな」と後悔するご家族がいたのも事実です。
この記事では、現役STの私が、胃ろうを作るか迷った時に家族が知っておきたいことをお伝えします。
※本記事は一般的な情報提供です。胃ろうを作るかどうかは、病気の状態、回復の見込み、本人の意思、苦痛、家族の状況によって変わります。必ず主治医・看護師・言語聴覚士・管理栄養士・ケアマネジャーなどと相談してください。
結論|胃ろうは「作って終わり」ではない
胃ろうは、口から十分に食べられない時に、栄養を入れるための方法です。
ただし、作ればすべて解決するわけではありません。
大事なのは、胃ろうを作った後の生活まで想像してから決めることだと思います。
胃ろうから栄養を入れるには、液体の栄養剤を1時間から3時間ほどかけて流すことがあります。
それが朝、昼、晩の合計3回です。
その間、本人が管を触ったり抜こうとしたりする場合は、手を動かせないようにする対応が必要になることもあります。
もちろん、すべての人に抑制帯が必要になるわけではありませんが、
認知症がある方や、管の意味が分からない方では、現場で問題になりやすい部分です。
だから家族には、胃ろうを「栄養が入る便利な方法」としてだけ見ないでほしい。
本人の命を支える方法になる一方で、本人の生き方を大きく変える選択でもあります。
胃ろうとは?お腹から胃に栄養を入れる方法
胃ろうとは、お腹から胃に小さな入口を作り、そこから栄養や水分を入れる方法です。
医学的にはPEG(ペグ)と呼ばれることもあります。
これは、口から十分に食べられない状態が続く時、長期的な栄養の方法として検討されます。
鼻から管を入れる経鼻胃管よりも、長期管理では胃ろうを選ぶことが多い。
でも、胃ろうを作っても、口から食べられるようになるとは限りません。
私が見てきた範囲では、胃ろうを作ったあとに、再び十分に口から食べられるようになった方は多くありませんでした。
確かに数人はいました。
ただ、感覚としては「かなり少ない」という印象です。
誤嚥性肺炎のリスクがゼロになるわけでもない。
口から食べなくても唾液を誤嚥することもありますし、胃から逆流したものを誤嚥して問題になることもあります。
「胃ろうにすれば安心」ではなく、「栄養を入れる道ができる」と考える方が近いです。

家族が理解しないまま同意してしまうことがある
私が現場で見ていて気になったのは、家族が胃ろうを十分に理解できていないまま同意しているように見える場面です。
もちろん、医師が悪いという話ではありません。
限られた時間で説明しなければならないし、病状によっては早めに方針を決める必要もあるのは理解しています。
でも、家族側は突然のことで頭が真っ白ですよね。
「胃ろうを作りますか?」と言われても、そもそも胃ろうが何か分からない。
作ったあと、どのくらい時間をかけて栄養を流すのか分からない。
本人が嫌がった時に、どうなるのか分からない。
それでも、「先生がそう言うなら」と進んでしまうことがあります。
だから私は、家族には遠慮なく質問してほしいと思っています。
分からないまま同意するより、「もう一度説明してほしい」と言っていいです。
「作ったあとの生活を教えてください」と聞いていいです。
本人の人生に関わる、大切な確認だと思います。
胃ろうで変わるのは、栄養だけではない
胃ろうを作ることで、栄養や水分を入れる道ができます。
それにより、生命を支える方向に働きますが、
それは必ずしも「健康な時間が増える」という意味ではありません。
ここは、家族にかなり慎重に考えてほしいところです。
胃ろうを作ることで、寝たきりの期間が長くなることもあります。
命が続く一方で、本人が自由に動けない時間、話せない時間、食べる楽しみを持てない時間が長くなるということです。
私はこれを、家族に怖がらせるために言いたいわけではありません。
ただ、「寿命」と「健康寿命」は同じではない、という視点は持ってほしいです。
💡 健康寿命って何?
介護や医療の支えが少ない状態で、その人らしく生活できる期間のことです。胃ろうで命を支えることと、本人が望む暮らしを守ることは、分けて考える必要があります。

栄養剤を流す時間と、抑制帯の可能性
胃ろうの話で、家族が意外と知らないのが「注入にかかる時間」です。
胃ろうからの経管栄養は、液体の栄養剤を流します。
1回の注入に、1時間から3時間ほどかかることがあります。
その間、本人は動きにくくなります。
栄養剤を入れている途中に、本人がチューブを触ったり、抜こうとしたりすることもあります。
とくに認知症がある方は、なぜ管があるのか理解できないことが多いので、
安全のために両手に抑制帯が使われることもあります。
抑制帯とは、手を動かせないようにする道具です。
医療者も簡単に使いたいわけではありませんが、
管を抜いてしまう危険を防ぐために、やむを得ず使われることがあります。
でも、家族にはこの現実も知っておいてほしいです。
胃ろうを作るということは、手術だけで終わる話ではありません。
その後、毎日の栄養注入、姿勢管理、チューブ管理、口腔ケア、本人の不快感への対応が続きます。
口から食べなくても、口腔ケアは必要
胃ろうを作ると、口から食べないから口のケアは少なくていいと思われることがあります。
でも、これは違います。
口から食べなくても、唾液は出ます。
口の中には汚れもたまります。
口の中が汚れた状態で唾液を誤嚥すると、肺炎のリスクにつながることがあります。
だから、胃ろうになっても口腔ケアは大切です。
歯みがき、舌の汚れ、入れ歯の管理、口の乾燥。
こうしたケアは、本人の不快感を減らす意味でも大事です。
家族が確認したい5つの質問
胃ろうを作るか迷ったら、次の質問を医療者と一緒に確認してほしいです。

まず、本人は元気な頃にどんな考えを持っていたか。
「管につながれてまで生きたくない」と話していたのか。
「できるだけ長く生きたい」と話していたのか。
あるいは、そういう話をしたことがなかったのか。
次に、回復の見込みです。
一時的に食べられないだけなのか。
今後も口から十分に食べることが難しいのか。
ここで選択の意味が変わります。
また、本人の苦痛も大事です。
胃ろうを作ることで、本人の苦しさが減るのか。
それとも、抑制や不快感が増える可能性があるのか。
家族だけで判断するのは難しいので、主治医、看護師、ST、管理栄養士に確認してください。
「これでよかったのかな」と悩む家族は多い
胃ろうを作ったあとに、「これでよかったのかな」と悩む家族を見たことがあります。
これは、とても自然なことだと思います。
家族は、その時できる範囲で一生懸命考えています。
でも、作ったあとに本人が寝たきりになっている時間が長くなる。
栄養注入のたびに時間がかかる。
管を触らないように手を抑えられている。
そういう姿を見ると、後悔や迷いが出てくることがあります。
だからこそ、作る前に「作った後の生活」を具体的に聞いてほしいです。
手術の説明だけではなく、暮らしの説明が必要です。
「どこで過ごすのか」
「誰が管理するのか」
「本人が嫌がった時はどうするのか」
「口から食べる楽しみは残せるのか」
ここまで聞いてから考えていいと思います。
本人の意思を想像するヒント
本人に直接確認できない時、家族は本当に苦しいと思います。
でも、何もできないわけではありません。
元気だった頃の言葉や、その人らしさを思い出すことはできます。

食べることが好きだった人なのか。
病院が苦手だった人なのか。
長く生きたいと話していた人なのか。
苦しい処置は嫌だと言っていた人なのか。
家族に迷惑をかけたくないと言っていた人なのか。
一つの言葉だけで決める必要はありません。
でも、本人らしさを真ん中に置いて話し合うことはできます。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケア」の考え方でも、本人の意思を基本に、家族や医療・ケアチームで繰り返し話し合うことが大切とされています。
胃ろうを作るかどうかも、家族だけで背負わず、チームで考えてください。
胃ろうを作らない選択は「見捨てる」ではない
胃ろうを作らない選択をすると、家族は「何もしなかった」と感じてしまうことがあります。
でも、作らないことが見捨てることとは限りません。
口をうるおす。
口腔ケアをする。
苦痛を減らす。
好きな味を少しだけ楽しめる方法を相談する。
本人が穏やかに過ごせる環境を整える。
これも大切なケアです。
一方で、胃ろうを作る選択も、家族の愛情から出ることがあります。
どちらが正しいと決めつけたいわけではありません。
大切なのは、十分に理解したうえで、本人ならどう望むかを中心に考えることです。
関連記事:胃ろう・点滴・看取りをどう考える?食べられなくなった親の選択
家族だけで背負わないでいい
胃ろうを作るか作らないかは、家族だけで決めるには重すぎる問題です。
主治医に聞いてください。
看護師に日常の様子を聞いてください。
STに飲み込みの状態を聞いてください。
管理栄養士に栄養の見通しを聞いてください。
ケアマネジャーに退院後や施設での生活を相談してください。
もし在宅での介護が限界に近い場合は、施設やショートステイの情報を集めることも選択肢です。
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よくある質問
胃ろうを作れば、誤嚥性肺炎は防げますか?
防げるとは言い切れません。
口から食べる量が減ることでリスクが下がる場合はありますが、唾液や逆流物を誤嚥することもあります。
主治医やSTに、本人の場合のリスクを確認してください。
胃ろうを作ったら、もう口から食べられませんか?
必ずしもそうではありません。
状態によっては、楽しみ程度に少量を相談できる場合もあります。
ただし、安全性の確認が必要なので、家族判断で食べさせないでください。
胃ろうを作らないのは、かわいそうですか?
一概には言えません。
本人の希望、苦痛、回復の見込み、生活の質によって考え方は変わります。
作らない選択も、本人らしさを守るためのケアになることがあります。
家族が後悔しないために、何を聞けばいいですか?
「作った後の生活」を聞いてください。
注入時間、管理する人、抑制の可能性、口から食べる楽しみ、退院後の生活場所。
ここまで確認してから考えることが大切です。
まとめ|胃ろうは本人の意思を想像して決めたい
胃ろうは、口から十分に食べられない時に、栄養を入れるための大切な方法です。
でも、作って終わりではありません。
栄養剤を流す時間があります。
チューブ管理があります。
本人が抜こうとすれば、抑制が必要になることもあります。
寝たきりの時間が長くなることもあります。
だからこそ、家族には「本人は希望していたかな」と想像してほしいです。
寿命を延ばすことと、本人らしい時間を守ることは、同じではありません。
胃ろうを作る選択も、作らない選択も、簡単に正解は決められません。
でも、理解しないまま進めるより、質問して、話し合って、本人らしさを真ん中に置いて考える。
それが、家族の後悔を少しでも減らす道だと思います。
参考資料
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html
- 日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/
- 日本消化器内視鏡学会「胃瘻造設術」 https://www.jges.net/
- PEGドクターズネットワーク「PEGとは」 https://www.peg.or.jp/
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 https://www.jsdr.or.jp/



