「歯肉がんの手術後に、舌を再建した方がいる」
「食事よりも、発音の聞き取りにくさが気になる」
「舌が動かしにくい時、STとして何をすればいいのか知りたい」
そんなST向けに、この記事を書きます。
今回の前提は、歯肉がん・口腔がん術後に舌の動きが悪く、主な困りごとは発音というケースです。
食事では、硬いものが食べにくい。
PAPなどの口腔内装置は使っていない。
発音は、特定の音だけというより、全体的に聞き取りにくい。
このような方に対して、STは何を見て、どこから練習を考えるとよいのでしょうか。
結論から言うと、舌再建後の構音リハビリは、舌を強く動かす練習だけでは足りません。
残っている舌、再建舌、頬、唇、あご、姿勢、発話速度、代償方法を合わせて見ながら、その人にとって伝わりやすい話し方を探すことが大事だと思います。
※本記事はST向けの一般的な学習記事です。術式、切除範囲、再建方法、放射線治療の有無、創部の状態によってリハビリ内容は大きく変わります。実際の介入は、主治医・歯科口腔外科・リハビリ担当医の指示、施設基準、本人の状態に合わせて行ってください。
結論|まずは「発音だけ」を見ない
舌再建後の構音リハビリでは、発音だけを聞いても全体像がつかみにくいです。
理由は、発音の不明瞭さの背景に、舌の動きだけでなく、口腔内の形、唾液処理、疲労、食事の残りやすさが関係することがあるからです。
たとえば、舌が上あごに届きにくいと、タ行、ダ行、ナ行、ラ行、カ行などが作りにくくなることがあります。
また、唾液が口の中にたまりやすいと、発音がぼやけて聞こえることもあります。
だから最初は、次のように広く見ます。
図解|まず見るポイント

見るポイントは、ざっくり次の5つです。
- 舌の前後・左右・挙上の動き
- 舌と上あごの接触
- 単音、単語、会話での明瞭度
- 食後の口腔残渣
- 話している時の疲れやすさ
ここで大事なのは、できない音を探して終わりにしないことです。
なぜその音が作りにくいのか。
代わりにどの動きなら使えるのか。
会話ではどのくらい伝わるのか。
そこまで見たいです。
まず確認したい医療情報
舌再建後の方では、STだけで判断しない方がいい情報があります。
特に確認したいのは、次の内容です。
- がんの部位
- 切除範囲
- 再建方法
- 放射線治療の有無
- 創部の安定性
- 開口制限の有無
- 歯や義歯の状態
- 食形態の指示
- リハビリ上の禁忌
同じ舌が動かしにくいでも、残っている舌がどれくらいあるか、再建舌がどの位置にあるかで、目標が変わります。
国立がん研究センターの口腔がんの療養情報でも、舌を切除している場合には舌の運動訓練が必要になること、また状態によってPAPなどの装置を使ったリハビリを行うことがあると説明されています。
STとしては、まず主治医や歯科口腔外科に確認しながら、「動かしてよい時期か」「どこまで負荷をかけてよいか」を押さえるのが安心です。
構音評価|単音だけで終わらせない
発音が全体的に聞き取りにくい方では、単音だけで判断しにくいです。
単音では出せても、単語や会話になると崩れることがあります。
逆に、単音では不十分でも、会話では文脈で伝わる場合もあります。
そのため、評価は段階を分けて見ます。
- 母音
- タ行、カ行、ラ行など舌音
- 単語
- 短文
- 音読
- 自由会話
- 疲れてきた時の変化
特に見たいのは、本人が何を一番困っているかです。
「家族には伝わるけど、電話が難しい」
「職場で聞き返される」
「ゆっくり話せば伝わる」
「長く話すと崩れる」
ここが分かると、訓練目標が作りやすくなります。
リハビリの進め方|単音から会話へ
構音リハビリは、いきなり会話だけ練習しても難しいことがあります。
でも、単音練習だけを長く続けても、生活に結びつきにくいです。
だから私は、単音、単語、短文、会話へ少しずつ橋をかける考え方が分かりやすいと思います。
図解|構音リハの進め方

具体的には、次のように進めます。
まず、鏡を使って舌や口唇の動きを確認します。
次に、出しやすい音と出しにくい音を分けます。
そのうえで、出しにくい音だけを責めるのではなく、伝わりやすい話し方を探します。
たとえば、
- ゆっくり話す
- 一音ずつ区切る
- 口を少し大きめに動かす
- 重要語を強調する
- 言い換えを使う
- 書字やスマホメモを併用する
といった代償方法も、立派なリハビリです。
舌の可動域そのものを広げる練習も大切ですが、術後の形態変化がある場合、元の舌と同じ動きを目指しすぎない視点も必要だと思います。
舌の運動訓練は「強く」より「使える動き」
舌が動きにくいと、つい「もっと舌を動かしましょう」と言いたくなります。
でも、舌再建後は、筋力低下だけでなく、構造の変化があります。
そのため、強く動かすことだけを目標にすると、本人が疲れてしまうことがあります。
STとして見たいのは、その方が使える動きです。
たとえば、
- 舌尖が少しでも上がるか
- 舌背で上あごに近づけるか
- 片側に食べ物が残りやすいか
- 唇や頬で補えるか
- あごの位置で発音が変わるか
こうした観察から、発音と食事の両方に使えるヒントを探します。
硬いものが食べにくい方なら、構音だけでなく、咀嚼、送り込み、口腔残渣も一緒に見る必要があります。
食事場面で残りやすい場所が、発音で接触しにくい場所と関係していることもあります。
PAPは「装置なしで困る時」の相談候補
PAPは、舌接触補助床(ぜつせっしょくほじょしょう)のことです。
💡 PAPって何?
上あご側に装着する補助装置です。舌と上あごのすき間を少なくして、舌が上あごに触れやすい状態を作ることがあります。
日本癌治療学会の口腔がん診療ガイドラインでは、舌や口底の切除後に舌の容量が減ったり、動きが大きく障害されたりした場合、PAPにより構音機能や摂食嚥下機能の回復が期待できる場合があるとされています。
ただし、PAPはSTが単独で作るものではありません。
歯科口腔外科、補綴歯科、主治医、STが連携して、適応を相談するものです。
今回の前提では、現在PAPなどの装置は使っていません。
でも、舌と上あごの接触がどうしても作りにくく、発音や送り込みに影響している場合は、「装置の適応を相談できるか」を主治医や歯科口腔外科に確認してもよいと思います。
図解|連携して確認すること

装置を使うかどうかは、本人の希望や口腔内の状態によっても変わります。
「使えば必ず良くなる」ではなく、選択肢のひとつとして考えるのがよいです。
STが訓練で意識したいこと
実際の訓練では、次のような流れが考えやすいです。
1. 本人の困りごとを具体化する
「話しにくい」だけでは、目標がぼんやりします。
電話が困るのか。
家族との会話が困るのか。
病院で名前を呼ばれた時に返事が伝わりにくいのか。
仕事復帰で困るのか。
生活場面に落とすと、必要な練習が見えます。
2. 聞き取りやすい条件を探す
発音練習では、できない音だけでなく、聞き取りやすくなる条件を探します。
- 速度を落とす
- 短く区切る
- 口を大きく動かす
- 姿勢を整える
- 重要な単語だけ言い直す
- 書く、指差す、スマホを使う
これらは、会話の成功体験につながります。
3. 食事とのつながりも見る
主訴が発音でも、硬いものが食べにくい場合は、食事場面も見たいです。
舌が動きにくいと、食塊形成や送り込みにも影響します。
口の中に残りやすい、片側にたまりやすい、食事に時間がかかる。
こうした情報は、構音訓練にも役立ちます。
4. 疲れを評価に入れる
舌再建後の方は、短い検査場面では頑張れても、長く話すと明瞭度が落ちることがあります。
だから、訓練室での数分だけではなく、会話が続いた時の変化を見たいです。
本人には、
「疲れると伝わりにくくなることがあります」
「大事な場面では、短く区切る方法も使えます」
と伝えると、生活に結びつきやすいと思います。
STとして学び直したい時
口腔がん術後の構音・嚥下リハビリは、STでも迷いやすい領域です。
脳血管障害の構音障害とは違い、術式や再建の影響を考える必要があります。
私自身も、こういうケースに出会うと「もう一度きちんと学びたい」と感じます。
ただし、実際の症例への介入は、必ず主治医や所属施設の方針に合わせてください。
まとめ|元の舌に戻すより、伝わる方法を探す
舌再建後の構音リハビリでは、元の舌の動きに戻すことだけを目標にしない方がよいと思います。
大事なのは、本人の生活の中で、どうすれば伝わりやすくなるかです。
この記事のポイントをまとめます。
- 術式、切除範囲、再建方法を確認する
- 発音だけでなく、唾液処理、食事、疲労も見る
- 単音、単語、短文、会話へ段階的に練習する
- 舌の運動は「強く」より「使える動き」を探す
- PAPなど装置の適応は歯科口腔外科・補綴と連携する
- 本人の生活目標から訓練内容を決める
舌が動かしにくい方へのリハビリは、正解が一つではありません。
だからこそ、STが一人で抱え込まず、主治医、歯科口腔外科、補綴、管理栄養士とつながりながら、本人に合う方法を探していけるといいと思います。
この記事は一般的な情報提供であり、個別の医療相談に代わるものではありません。
具体的な訓練内容や装置の適応は、主治医・歯科口腔外科・担当リハビリ職に相談してください。
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