「急に会話が通じなくなった」

「言っていることのつじつまが合わない」

「もしかして認知症が進んだのかな」

脳卒中のあとや、急な体調変化のあとに、家族がこう感じることは少なくありません。

現場でも、私は何度も見てきました。

ご家族が悪いわけではありません。会話が通じない状態を目の前にすると、認知症と似て見える気持ちはとても分かります。

でも、そこで「もう認知症だから」「おかしくなった」と決めつけるような対応をしてしまうと、本人は傷つきます。

失語症の方は、言葉でうまく返せなくても、家族の表情や空気を感じ取っていることがあります。

この記事では、現役STの私が、失語症と認知症の違い、家族が見分ける時の視点、そして本人を傷つけない接し方を、できるだけやさしくまとめます。

結論|失語症は「言葉」、認知症は「生活全体」で困りやすい

まず結論です。

失語症と認知症は、外から見ると似て見えることがあります。

でも、困りごとの中心は少し違います。

失語症は、脳卒中や頭のけがなどによって、聞く・話す・読む・書くといった「言葉の出し入れ」が難しくなる状態です。

一方で認知症は、記憶、判断、段取り、生活全体の力に影響が出やすい状態です。

失語症と認知症の違い。失語症は言葉の出し入れが難しい、認知症は記憶・判断・生活全体に影響しやすいことをまとめた図解

もちろん、失語症と認知症が重なることもあります。

だから、家族だけで決めつける必要はありません。

大事なのは、最初から「認知症になった」と決めつけず、言葉の障害として見られる可能性も知っておくことです。

💡 ざっくり言うと
失語症は「言葉の通り道」がうまく働きにくい状態。
認知症は「記憶や判断を含めた生活全体」に影響が出やすい状態。
似て見えるけれど、同じではありません。

失語症とは|考えていないのではなく、言葉にしにくい状態

失語症は、脳の言葉に関わる部分が傷つくことで起こります。

主な原因は、脳梗塞や脳出血などの脳卒中です。

国立障害者リハビリテーションセンターは、失語症を、脳損傷によって聞く・話す・読む・書く・計算などが障害される状態として説明しています。

ここで家族に知ってほしいのは、失語症は「何も分かっていない」という意味ではないことです。

たとえば、頭の中では言いたいことがある。

でも、その言葉が出てこない。

相手の話を聞いているのに、意味としてうまく入ってこない。

文字や絵を見せると分かることがある。

こういうことが起こります。

私が家族に説明するなら、「日本語が急に外国語みたいに聞こえるイメージ」と伝えることがあります。

目の前の人が話しているのは分かる。

でも、意味がすっと入ってこない。

言いたいことはあるのに、ちょうどいい言葉が見つからない。

そう考えると、本人の困り感を少し想像しやすくなると思います。

関連記事:ペラペラ話すのに通じない失語症|ウェルニッケ失語を家族向けに解説

認知症とは|記憶や判断が生活に影響しやすい状態

認知症は、記憶や判断、理解、段取りなどの力が低下し、生活に支障が出てくる状態です。

厚生労働省も、認知症を、いろいろな原因で脳の働きが悪くなり、生活するうえで支障が出ている状態と説明しています。

たとえば、同じことを何度も聞く。

約束や予定を忘れる。

料理や買い物の段取りが難しくなる。

お金の管理が難しくなる。

場所や時間が分かりにくくなる。

こうした生活全体の変化が目立つことがあります。

ただし、ここも単純ではありません。

失語症の方も、言葉で説明できないために「分かっていないように見える」ことがあります。

だからこそ、家族だけで判断しないことが大切です。

家族が認知症と間違えやすい理由

家族が失語症を認知症と間違えやすい理由は、とても現実的です。

会話が通じないからです。

質問しても、違う答えが返ってくる。

言っていることのつじつまが合わない。

さっきまで普通だった人が、急に別人のように見える。

これを見たら、ご家族が「おかしくなったのかな」「認知症なのかな」と不安になるのは自然です。

私も、その気持ちは理解できます。

でも、本人の前であきらめた表情をしたり、「もう無理だね」という空気を出したりすると、本人の心に残ります。

言葉が出ないだけで、感情までなくなったわけではありません。

むしろ、うまく伝えられない分、周囲の表情や声のトーンに敏感になっている方もいます。

だから私は、家族にはこう伝えたいです。

「認知症かどうかを家族だけで決めるより、まずは失語症の可能性も考えて、専門職に相談してほしい」

失語症かも?家族が見るポイント

次のような場合は、失語症の可能性も考えてほしいです。

失語症かも?見るポイント。急に言葉が出ない、麻痺がある、話は分かるのに言えない、文字や絵だと伝わるなどをまとめた図解

まず、急に言葉が出にくくなった場合。

特に、脳卒中のあとから会話が変わった場合は、失語症が関係していることがあります。

右手足の麻痺や、顔の動きに左右差がある場合も、脳卒中後の言語障害として見る必要があります。

また、「話の内容は分かっていそうなのに言葉が出ない」という場合もあります。

質問にうなずける。

表情で伝わる。

文字や絵を見せると選べる。

でも、言葉ではうまく言えない。

こういう時は、「理解していない」と決めつける前に、伝え方を変えてみることが大切です。

逆に、昔から少しずつ物忘れが増えていた、生活の段取りが難しくなっていた、金銭管理や服薬管理で困りごとが出ていた、という場合は、認知症の評価も必要になることがあります。

どちらにしても、家族だけで抱え込まなくて大丈夫です。

気になる変化がある時は、主治医、脳神経内科、リハビリ科、言語聴覚士などに相談してください。

本人を傷つけない接し方|大事なのは「あきらめない空気」

失語症の方との関わりで、家族に一番大切にしてほしいのは、正しい訓練方法を完璧に覚えることではありません。

まずは、あきらめた態度や表情をしないことです。

本人にとって、家族の反応はとても大きいです。

「もう話せないんだね」

「何を言っているか分からない」

「認知症みたいになったね」

こういう言葉や空気は、本人のモチベーションを下げてしまうことがあります。

反対に、うなずいてくれる。

焦らず待ってくれる。

「大丈夫、ゆっくりでいいよ」と言ってくれる。

「一緒にやっていこうね」という雰囲気がある。

それだけで、本人の安心感は変わります。

家族ができる声かけ。短い言葉、文字や絵を使う、はい・いいえで聞く、答える時間を待つ、子ども扱いせず大人として接することをまとめた図解

家族が今日からできる工夫は、次のようなものです。

  • 短い言葉で話す
  • 一度にたくさん質問しない
  • 「はい」「いいえ」で答えられる聞き方にする
  • 文字や絵、写真を使う
  • 身振りや指差しを使う
  • 答えるまで待つ
  • 子ども扱いせず、大人として接する

特別な道具がなくても、できることはあります。

「お茶?水?」と実物を見せる。

食事の写真を見せて選んでもらう。

紙に大きく書く。

うなずきや表情も、立派なコミュニケーションです。

関連記事:失語症の家族とどう話せばいい?「待つ」が一番のリハ

STとして感じること|本人は家族の空気を見ている

私は現場で、家族が認知症と決めつけてしまう場面をたくさん見てきました。

もちろん、ご家族を責めたいわけではありません。

突然会話が通じなくなれば、誰でも戸惑います。

むしろ、認知症と似て見えると思うのは自然です。

でも、その対応で本人が傷つく場面もあります。

本人は言い返せない。

説明できない。

でも、家族が自分をどう見ているかは感じている。

そういう方もいます。

失語症のリハビリは、本人だけが頑張るものではありません。

家族の「大丈夫」「ゆっくりでいいよ」「一緒にやっていこうね」という雰囲気が、訓練のモチベーションにつながることがあります。

完璧な声かけでなくていいです。

ただ、目の前の人を「認知症になった人」ではなく、「言葉がうまく使えなくて困っている大切な人」として見てほしいです。

迷った時は、専門職に相談していい

家族だけで、失語症か認知症かを見分けるのは難しいです。

だから、迷った時は専門職に相談していいです。

急に言葉が出ない、ろれつが回らない、片側の手足が動きにくい、顔のゆがみがある、強い頭痛がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

脳卒中の可能性がある時は、様子見をしすぎないことが大切です。

すでに退院後で、家での関わり方に悩んでいる場合は、主治医、ケアマネジャー、訪問リハ、通所リハ、デイサービスのリハ職に相談してみてください。

失語症の支援は、家族だけで抱え込むとしんどくなります。

チームで考えていく方が、本人にも家族にもやさしいです。

ST・リハ職の方へ|説明できる言葉を持っておきたい

失語症と認知症の違いは、専門職にとっては基本かもしれません。

でも、家族に説明するとなると難しいです。

「失語症です」と言うだけでは、家族には伝わりにくいことがあります。

私自身も、家族に伝える時は、できるだけ生活の言葉に置き換えるようにしています。

「日本語が外国語のように聞こえるイメージです」

「分かっていないのではなく、言葉に変換するところで困っています」

「文字や絵を使うと伝わることがあります」

こうした説明ができると、家族の見方が変わることがあります。

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新人STさん、一人職場のSTさん、失語症のケースを相談できる人が少ない方は、外で学ぶ場所を持っておくと心強いと思います。

失語症の基礎を本で確認したい方は、専門書で体系的に見直すのも一つです。

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よくある質問

失語症と認知症は同時に起こりますか?

起こることがあります。

失語症と認知症は別の状態ですが、高齢の方では両方が重なることもあります。

だからこそ、家族だけで決めつけず、医師や言語聴覚士に相談することが大切です。

話が通じない時は、大きな声で話せばいいですか?

失語症は、基本的に耳の聞こえだけの問題ではありません。

大きな声で話せば伝わるとは限りません。

短い言葉にする、文字や絵を使う、答える時間を待つなど、伝え方を変える方が役立つことがあります。

本人の前で「認知症かも」と言ってはいけませんか?

不安な気持ちを相談すること自体は悪いことではありません。

ただ、本人の前で決めつけるように言うと、本人が傷つくことがあります。

心配な時は、本人を責める形ではなく、医療職に相談する形にしてほしいです。

家族ができる一番大事なことは何ですか?

焦らせないことです。

うなずく、待つ、短く話す、文字や絵を使う。

そして「大丈夫、ゆっくりでいいよ」という空気をつくることです。

まとめ|言葉が通じない時ほど、本人を決めつけない

失語症と認知症は、家族から見ると似て見えることがあります。

会話が通じない。

つじつまが合わない。

今までの本人と違って見える。

その不安は、とても自然です。

でも、失語症は「言葉の出し入れ」が難しくなる状態であり、認知症とは同じではありません。

本人は、言葉にできなくても傷つくことがあります。

家族の表情やあきらめた空気を感じ取ることもあります。

だからこそ、決めつける前に、失語症の可能性を知ってほしいです。

そして、焦らず、うなずきながら、ゆっくり関わってほしいです。

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

その一言が、本人のリハビリへの気持ちを支えることがあります。

関連記事:失語症は何年経っても良くなる?現役STの本音

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参考資料

※本記事は、現役STとしての経験と公開情報をもとに作成しています。失語症や認知症の状態は個人差が大きいため、診断や治療方針については主治医・専門医・言語聴覚士にご相談ください。