系列語は一緒に言える。でも、その先の課題をどう選べばいいのか。

私も、重度の発語失行の方を担当して、ここで手が止まりました。

まず整理したいのは、「何を言えたか」と「どんな助けがあれば言えたか」です。次の課題を増やす前に、その条件を見直してみませんか。

この記事は、成人の発語失行を担当するST・若手・実習生向けです。私の経験と公開資料を分けながら、次の支援を考える手がかりをまとめます。

発語失行の訓練は、言えない理由の整理から

発語失行は、話すための口や舌の動きを組み立てる働きに障害がある状態です。失語症や運動障害性構音障害が、一緒に生じることもあります。

「声が出ない」「理解がよさそう」だけでは、発語失行と判断できません。 重さも、声の有無だけでは決められません。ASHAの解説でも、複数の症状を合わせた評価が必要とされています。

発音だけを見ず、言葉の理解や口の動きも確認する

2024年の学会誌の解説では、発話の特徴と、発声・発語に関わる器官の運動機能の評価が挙げられています。音を繰り返す課題なども、見分ける手がかりになります。

出典:太田ら「発語失行と構音障害」抄録

私自身、担当した当初は、普段の失語症の訓練との違いに戸惑いました。ただ、その違和感を、そのまま診断の根拠にはできません。

「言いたい言葉を選ぶところ」と「音にするところ」。どこで難しくなっているのかを、評価に戻って整理することが出発点です。

系列語が言えたら、支援の条件も残す

系列語とは、数字や曜日など、決まった順番で続く言葉です。「おはよう」などの挨拶や、歌とは分けて考えます。

数唱・曜日・挨拶の例と、支援を減らす考え方

図は課題の例です。「途中から一人で」は、状態に応じて試す選択肢であり、全員の次の目標ではありません。

「一緒に言えた」と「一人で言えた」を分ける

記録の整理には、たとえば次の項目を使えます。

  • 何を言ったか:数字、曜日、本人になじみのある言葉など。
  • どんな助けを使ったか:同時に言う、口元を見せるなど。
  • 助けを減らすとどうだったか:続いたか、止まったか。
  • 本人の負担はどうだったか:疲れや困った様子がなかったか。

これは記録項目の提案で、特定の患者さんの経過ではありません。

「数字が言えた」だけで終わらせず、どこまで一緒に言ったかも残す。そうすると、次回に確かめたいことを絞りやすくなります。

系列語の例や、歌と分けて考える理由は、系列語とは?失語症リハでの使い方にもまとめています。

STと一緒に言う練習から、助けを調整する

私が手がかりにしたのは、STと声を合わせて一緒に言う方法でした。一人で繰り返すのは難しくても、一緒なら言葉が出る場面を経験しています。

私が工夫しているのは、口元を見せることです。うまくいかない時も、もう一度口の形を見せて試します。ただ、次にどう進めるかは、今も私自身が悩むところです。

見せる・一緒に言う・助けを減らす

ASHAは、見本を見て聞き、同時に発話する練習を紹介しています。その後は、本人が独力で練習できるよう、見本を減らしていく考え方です。

出典:ASHA:Integral Stimulation

口の形を見る、一緒に言う、口の動きだけを示す、一人で言うという支援調整の例

図の4段階は、支援の変え方を示す例です。正式な治療手順を4つに固定したものではなく、必ずこの順番で進めるものでもありません。

たとえば、次のように確認する項目を分けてみます。

  1. 一緒に言った時の、本人の声や口の動きを確認する。
  2. 同じ言葉で、見本の声など一つの条件を変えてみる。
  3. 本人の負担を見ながら、助けを戻すか、次の課題へ進むかを考える。
  4. 一人で言えた場合も、別の機会や場面ではどうかを記録する。

あえて「もう一度」を求めない時もある

間違えたことに本人が気づいていたり、悔しそうな様子が見えたりする時があります。そんな時、私はあえて繰り返しを求めず、次へ進むこともあります。

何度試しても難しいと、自信を失ってしまうことがあるからです。

これは私が現場で大切にしている配慮です。いつも同じ対応に決めるのではなく、本人の反応を見ながら考えています。

言えたかどうかだけでなく、その時の表情も見ていたい。練習を続けるためにも、大切にしたいところです。

行き詰まった時に、課題を増やす前に考えたいこと

新しい訓練を探し続けると、選択肢だけが増えて迷うこともあります。そんな時は、次の三つに分けて整理してみませんか。

① 言葉と助け方を、同時に変えすぎていないか

課題も声かけも一度に変えると、何が影響したのか振り返りにくくなります。

「同じ言葉で助け方を比べる」「助け方をそろえて言葉を比べる」。次に確かめたい点を、一つ書き出す方法を提案します。

これは診断や効果判定の基準ではなく、日々の観察を整理するための工夫です。

② 声を出すことと、言葉を作ることを混同していないか

私は以前、舌打ちやため息なども試していました。ただ、それを全員に必要な「発語の前段階」とは言えません。

このページでも以前は「声の土台作り」と説明していましたが、必須の順番と受け取られないよう見直しました。咳払いを繰り返す練習も、一律には勧めません。

声そのものが出にくい場合は、発語失行だけで説明せず、発声の状態も含めて医師・STが評価することが大切です。

③ 生活で伝える手段を、後回しにしていないか

言葉の練習をしている間も、本人には伝えたいことがあります。

NIDCDの解説では、話すことが難しい場合に、絵や書いた言葉などを使う方法も紹介されています。声以外の手段を使うことは、訓練をやめることとは違います。

ただし、文字や指さしが誰にでも使えるわけではありません。本人が選びやすい方法を、担当STと探します。

道具選びに迷ったら、失語症の会話道具|50音表が難しい時の選び方も参考にしてください。

学び直すなら、「今の疑問」を決めてから

ここまで整理しても、評価の解釈や、助けを減らす判断に迷うことはあると思います。

私も一度、嚥下についてのオンライン講座を利用しました。そこで、悩んでいることに共通点があり、「自分だけじゃないんだ」と思えた経験があります。

発語失行の講座を受けた体験ではありませんが、一人で悩み続ける時に、学ぶ場に触れる意味を感じました。

まずは職場のSTとの相談や、この記事末尾の公開資料から始める方法があります。そのうえで、動画で学びたい時には、オンライン講座も選択肢になります。

申し込む前に、講座内容を確認する

講座を選ぶ時は、たとえば次の点を確認してみてください。

  • 知りたいのは、失語症との見分け方か、発話の支援方法か。
  • 成人の後天性発語失行など、対象が自分の学習目的に合うか。
  • 講師や内容紹介から、具体的に何を学べるか分かるか。
  • 料金・視聴期間・解約条件が、続けやすいものか。

PT・OT・ST向けの動画サービス「リハノメ」では、カテゴリやキーワードで講座を検索できます。まず配信内容を見て、今の疑問に合う講座があるか確認してください。

配信内容は変わるため、発語失行について学べる講座があるかは、申し込み前にご確認ください。ここでは学習手段の一つとして紹介しています。

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よくある質問

系列語が言えたら、会話もできるようになりますか?

系列語での反応だけでは判断できません。何の助けを使ったかに加え、生活の中で必要なことを伝えられるかも、別に確かめます。

家族が同じ練習をしてもよいですか?

担当STに、本人に合う言葉・助け方・休む目安を確認してください。記事の図だけで進めず、家庭で取り組める内容を一緒に決めましょう。

重度でも回復しますか?

経過には個人差があり、この記事から期間や到達点は予測できません。NIDCDも、治療は個人に合わせて行うと説明しています。本人の目標や状態に合わせ、支援を見直していきます。

まとめ|次の一歩は「言えた条件」を残すこと

系列語の先で迷った時、すぐに新しい課題を足す必要はないと思います。

次の訓練では、「何を、どの助けで言えたか」を一つ残してみる。そこから次に確かめることを考えてみませんか。

一緒に言えた場面を大切にしながら、生活で伝わる方法も探していく。同じところで悩むSTさんの、整理のきっかけになればうれしいです。

参考資料

確認日:2026年10月24日

本記事は一般的な情報です。個別の診断や訓練計画は、担当の医師・言語聴覚士にご相談ください。

著者:うめあかり

現役言語聴覚士。急性期病院で9年勤務後、現在はリハ特化型デイサービスで勤務中。