系列語は、数字や曜日など順番が決まった言葉です。失語症の方が、発話しやすい条件を探す手がかりになります。
ただし、数えられることと会話ができることは別です。例と試し方、効果の捉え方を整理します。
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結論|系列語・挨拶・歌は分けて考える
系列語は、覚えた順番に沿って続く言葉です。 数字や曜日が代表例です。挨拶や歌も出やすい場合がありますが、同じ意味ではありません。

- 系列語:一、二、三/月曜、火曜、水曜
- 定型句:おはようございます/ありがとう
- 歌唱:こいのぼり/めだかの学校
順番を言う課題と、質問への答えは別
「月曜、火曜、水曜」と続けるのが系列語です。一方、「今日は何曜日?」は別の課題です。今日に当たる曜日を選んで答える必要があります。
数字も、一から順に言う場面と買い物では違います。数えられても、値段を伝えられるとは限りません。何ができたのかを、課題ごとに捉えます。
失語症は「話す」だけの問題ではない
失語症では、聞く・読む・書くことも難しくなる場合があります。国立障害者リハビリテーションセンターは、計算や社会生活への影響も説明しています。発話の量だけで、状態全体は判断できません。
系列語は、残っている力を知る一つの材料です。会話や理解の様子と合わせて見ると、支援を選びやすくなります。
重度失語の方と、一緒に声を出した実体験
私には、重度失語の方の支援で感じていることがあります。系列語は、ほかの言葉より出やすい印象があります。 曜日や数字を、一緒に言う場面でそう感じます。
童謡では「こいのぼり」「めだかの学校」もよく使います。こちらは系列語ではなく、歌唱としての取り組みの一つです。一緒に声を出すことで、言葉が出やすくなる場面があります。
言葉が出た時の表情も覚えておきたい
その時、嬉しそうな顔や驚いたような顔が見られます。私にとって、STをしていてよかったと思える瞬間です。言えた言葉だけでなく、その時の表情も大切にしたいですね。
ただ、ご本人の気持ちを表情だけで決めつけないようにしています。リハビリを続けたいか、疲れていないかも確かめます。
実体験と、効果の証明は分ける
これは私の臨床での印象ですが、全員に同じ反応が出るとは言えません。重症度だけで、向き不向きも決められないと思っています。
系列語を一緒に言うと、言葉が出やすくなる場面があります。ただし、その場の反応だけでは、喚語困難が長期的に改善したとは判断できません。
💡 喚語困難(かんごこんなん)とは:言いたい言葉を思い出しにくい状態です。声が出ない原因のすべてを指す言葉ではありません。
一緒に話すと言葉が出たのか、一人でも出たのか。この違いを残しておくと、次の支援につながります。
出やすさについて、研究から分かること
慣れた表現の出やすさには、研究上の手がかりがあります。ただし、数字や曜日の訓練効果を直接示した研究とは区別が必要です。
定型的な表現を調べた小規模研究
2009年の研究は、脳卒中後の4人を調べています。会話中の定型的な表現と、脳の損傷部位を比較した研究です。定型的な表現を話す働きに、右半球や脳の深い部分が関わる可能性を示しています。
ただし、少数例の発話を調べた研究なので系列語訓練で会話が改善するかは検証していません。右側の脳だけで話している、とは言えません。
出典:Sidtisら(2009)定型的な言語表現と脳損傷の研究
発語失行の研究と失語症を混同しない
2020年の研究対象は、慢性期の発語失行がある20人です。ドイツ語の定型句に由来する音の手がかりを使いました。その手がかりを使う条件では、単語の最初の音を正しく発音しやすくなりました。
💡 発語失行とは:話すための動きの組み立てが難しくなる状態です。言葉を思い出す難しさとは区別します。
これは実験中の条件を比べた結果です。日本語の数字や曜日を繰り返す長期訓練ではありません。失語症全体の改善を示す根拠にはできません。
出典:Stahlら(2020)、PubMed PMID:32497064
研究は「試す理由」にはなりますが、目の前の方に合うかは、反応を見て判断しましょう。
系列語を試す時は、支援の条件をそろえる
最初は、本人が慣れた短い並びを選びます。 長く言わせることより、出やすい条件を探します。以下は訓練量を定めたわけではなく、試し方の例です。

まずは同じ内容を、一緒に言ってみる
- 数字や曜日から、本人が慣れたものを選ぶ。
- 「一、二、三」など短い範囲を一緒に言う。
- 様子を見て、声の重ね方を少し変える。
- 出た言葉と、その時の支援を記録する。
一緒に言う時は、相手が合わせられる速さにします。こちらだけが先に進んでいないかも見ます。途中で止まったら、急いで続きを求めないようにします。
慣れてきたら、最初だけ声を添える方法もあります。ただし、一人で言う段階へ急ぐ必要はありません。難しくなったら、一緒に言う条件へ戻しましょう。
伝えたい言葉は、系列語とは別に練習を考えます。数が言えたら会話へ進める、という一本道ではありません。本人に必要な言葉を、担当STと選びます。
系列語だけで評価を終えない
ASHAは、数唱を発語失行の評価課題に挙げています。一方で、自発話や復唱なども確認します。一つの課題だけで判断しないためです。
出典:ASHA「Acquired Apraxia of Speech」評価の項
聞こえや指示の理解にも気を配ります。声が出にくい時は、発音の様子も担当STと確認します。出なかった回数だけを増やす練習にはしません。
記録は「支援あり」と「一人で」を分ける
その場の発話と、生活での変化を別々に記録します。 一緒に言えたことには意味があります。でも、それだけで喚語困難そのものの改善とは言えません。
「改善した」より、条件を書き残す
次は記録の書き方の例です。私が担当した方の実際の記録ではありません。
数字の一から三をSTと同時に発話した。一人での発話は難しかった。発話後に笑顔が見られた。
こんなメモです。
この書き方なら、次の担当者も条件を再現できます。「系列語良好」だけでは、他のSTが見たときに助け方が伝わりません。記録には次の3点を残すと整理しやすいです。
- 課題:数字か曜日か、どの範囲か
- 支援:同時発話か、最初の音だけか
- 反応:出た言葉、表情、疲れの様子
別の日や生活場面でも確かめる
練習していない言葉や、普段の会話も見るようにしています。翌日も同じ条件で出るかは、別の確認事項です。
ASHAは、本人に合う目標と生活への参加を重視しています。数字を増やすだけでなく、本人の希望を確認して訓練に取り入れるようにしましょう。
童謡は会話への近道と決めず、楽しさも大切に
歌えることは、会話の回復と同じではありません。 歌の中の言葉と、自分で選ぶ言葉では似ているようで違います。
好きな曲を、短い部分から
「こいのぼり」「めだかの学校」は私が使う例です。誰にでもなじみがあるとは限りません。童謡を好まない方に、無理に選ぶ必要もありません。
好きなアーティストや曲を用いてもよいと思います。
一緒に歌うか、聴くだけにするかも本人と相談するようにしましょう。歌詞が出ない時には、無理に続きを何度も求めないことも大切です。ここはご家族にも、伝えておきたい大切なポイントです。
旋律やリズムを使う専門的な言語訓練もあります。ASHAは、日常的なフレーズを練習する方法を紹介しています。童謡を一緒に歌う活動とは、区別して考えます。
出典:ASHA「Aphasia」Melodic Intonation Therapyの項
家族はどこまで手伝えばよい?
担当STと、言いやすかった内容を共有することが出発点です。疲れや嫌がる様子があれば、お休みにします。
言葉が出ない時は、指さしや身振りを使い、本人の意思を確かめるようにしましょう。
まとめ|言えた条件を、次の支援へ
系列語を使う時は、次の3点を押さえます。
- 数字・曜日と、挨拶・歌唱を区別する。
- 一緒に言えた時の支援条件を残す。
- 生活で伝わるかどうかは、別に確かめる。
私が大切にしたいのは、言葉が出た時の表情です。その瞬間を受け止めながら、評価は丁寧にする。 これが言語聴覚士の醍醐味だと思います。
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参考資料
- 国立障害者リハビリテーションセンター:言語聴覚療法
- ASHA:Aphasia
- ASHA:Acquired Apraxia of Speech
- Sidtisら(2009):Effects of neurological damage on production of formulaic language
- Stahlら(2020):Formulaic Language Resources May Help Overcome Difficulties in Speech-Motor Planning after Stroke
本記事は一般的な情報であり、個別の医療相談に代わるものではありません。訓練内容は、担当の医師・STとご相談ください。
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