絵カードの名前は言える。でも、フリートークになると言いたいことが出てこない。

私も、そんな方を担当したことがあります。単語課題の次は何を練習すればいいんだろうと、課題に迷います。

今回は、単語の練習から日常会話へつなぐ6つのアイデアを調べました。初心者STが、目の前の方に合わせて選べる形で紹介します。

※この記事には広告(PR)が含まれます。脳卒中などによる成人の失語症を主に扱います。課題例は一般的な説明で、個別評価や指導に代わるものではありません。

単語が言えるのに、会話が難しいのはなぜ?

私が迷うのは、「長い文だから難しいのか、それとも普段あまり使わない言葉だから出にくいのか」というところです。失語症は、本当に一人ずつ違います。

会話では、言葉を思い出すだけでなく、相手の話を理解し、伝えたい内容を文にする必要があります。聞く・話す・読む・書くの状態に加えて、疲労や注意、発語失行などの併存も評価します。ASHAの失語症の評価情報でも、複数の側面を確認する考え方が示されています。

だから、絵カードができたことだけで軽度だから会話も大丈夫とは言えません。

患者さんの背景からよく使う言葉と、あまり使わない言葉の差も検討します。ただし、難しい単語を言えなかっただけで、会話のつまずきの原因まで決めないようにしたいです。

同じ話題で、条件を少しずつ変える

例えば「買い物」という一つの話題で、次のように見てみます。これは検査ではなく、課題を選ぶための観察例です。

  • 品物の名前なら言えるか
  • 「何を買った?」には答えられるか
  • 「誰と、どこへ行った?」を一つずつ聞くとどうか
  • 出来事をまとめて話すと、どこで止まるか
  • キーワードを文字で見せると変わるか

一度に文の長さ、話題、手がかりを全部変えると、何が助けになったのか分かりにくくなります。同じ言葉でも、単独で答える時と、文の中で使う時を比べると、次の課題を考えやすくなります。

同じ買い物の話題で、単語、短い文、出来事の説明、文字の手がかりを比較する観察例

文字が助けになる方には、何を見せる?

私の経験では、文字を使うと反応がよい方も意外と多いです。声だけでやり取りするより、目に見える手がかりがある方が取り組みやすい場面があります。

ただ、文字を読めることと、意味が分かることは別です。まずは身近な単語を見せ、写真や実物と結びつけられるかを確認します。漢字・仮名のどちらが助けになるかも、一律には決めません。

使う時は、説明文をびっしり書くより、「買い物」「病院」など話題のキーワードから。選択肢を出す場合も、本人の答えが候補にない可能性を残します。

例えば「買い物・散歩・どちらでもない」と示し、指さしでも答えられるようにします。選んだ言葉だけで決めつけず、「買い物に行ったお話で合っていますか?」と確認します。

文字、絵、身振りを使って会話を支える方法は、Aphasia Instituteの会話支援でも紹介されています。以下の課題は、その考え方や研究を参考にした本記事の練習例です。特定の治療法の正式な手順を再現したものではありません。

会話につなぐ訓練アイデア6つ

全部を順番に行う必要はありません。言葉を探す練習と今ある力で伝える練習の両方から、本人の困りごとに合うものを選びましょう。

1.動詞を真ん中にして、短い文を作る

「りんご」「お母さん」と名詞を並べるだけでなく、「切る」「運ぶ」などの動きを使います。

例えば「切る」を見せ、「誰が?」「何を?」を一つずつ考えます。「料理人が野菜を切る」のように短い文へつなげます。

難しければ人物・物の絵や文字から選ぶ形に。余裕があれば「美容師が髪を切る」のように、別の組み合わせを考えます。助詞を含む文作りと、必要な単語を出すことは分けて記録します。

動詞と、それに関わる人物・物を扱うVNeSTという治療研究があります。4人を対象とした初期研究では、訓練していない文への広がりが報告されました。ただし、この簡略な課題例を行えば同じ効果が出る、という意味ではありません。Edmondsらの研究

2.写真1枚を「誰が・何をした」で説明する

最初は、人物や動作が少ない写真を選びます。例えば、一人が洗濯物を干している場面です。

「自由に説明してください」で止まるなら、「誰がいますか」「何をしていますか」と分けて聞きます。本人が出した言葉をSTが紙に書き、短い説明にまとめる手がかりにしてもよいでしょう。

情報が多い情景画は、その次の選択肢です。人物を増やす、場所を加える、前後の出来事を考えるなど、一つずつ難しくします。情報量が増えた時のつまずきは、失語症だけでなく注意面なども検討します。

3.名前が出ない物を、別の言葉で伝える

名前を当てるではなく、相手にどの物か伝える課題です。STには見えないカードを本人が見て、特徴を伝えます。

例えば傘なら、「雨の日」「外で使う」「開く」など。言葉だけで難しければ、身振りや描画も使います。STが選んだ物が合っているか、本人に確かめてもらいます。

やさしくする時は、相手が選ぶ候補を少なくします。難しくする時は、似た物を候補に加えます。名前が出なかった回も、特徴で伝わったなら、その成功を記録できます。

4.本人が使いたい会話を、短く練習する

買い物や電話など、本人が必要とする場面を一つ選び、短いやり取りを用意します。

例えば予約なら「予約を変更したいです」「別の日は空いていますか」。文字を見ながら一緒に言うところから始め、相手役とのやり取りへ進めます。

決まった会話を繰り返す練習は「スクリプト訓練」と呼ばれます。初期研究では練習した会話で改善が報告されていますが、自由な会話全体への効果とは分けて捉えます。Cherneyらの研究

覚えた文だけで終えず、相手役が一つ質問した時にどう返すかも確認します。文字のメモが実生活で役立つなら、無理に取り上げる必要はありません。

5.出来事を三つのメモで振り返る

「昨日はどうでした?」は、話題選びから任せる質問です。難しい時は、本人が話したい出来事を決め、「いつ・どこ・何をした」を紙に分けて書きます。

メモを指しながら話しても、STが書き留めても構いません。最初から長い文章にせず、「昨日」「公園」「散歩」だけでも内容を共有します。

話しやすければ、最後に「どう思った?」を足します。出来事そのものを思い出しにくい場合は、言葉の問題だけと決めつけず、記憶面や写真などの支援も検討します。

6.伝わらなかった時の、やり直しを練習する

会話では、一度で通じない場面もあります。その時に、別の方法へ切り替える練習です。

例えば「もう一度言う」「キーワードを書く」「写真を見せる」から、本人が使いやすい方法を試します。聞き手も「ここまでは分かりました」と伝え、分からない箇所を一つだけ確認します。

動詞から文へ、写真説明、特徴で伝える、必要な会話、出来事のメモ、伝え直しの6つの練習例

効果は、正答数だけではなく会話でも見る

次の訓練を考える時、私なら「今日は何問できたか」だけでなく、どの支援があれば伝わったかも残しておきたいです。

  • 自力で伝えられた内容
  • 文字・絵・質問など、使った手がかり
  • 言い直しや指さしで伝え直せたか
  • 本人が話しやすかったと感じたか

同じ写真で言えるようになったら、別の写真や話題でも確認します。練習した課題の上達と、日常で使えるようになることは、別々に見ていきます。

文字を見せたら話せた場面でも、「能力が回復した」とすぐには判断できません。その場で支援が役立ったこと自体に価値がある。

課題のレパートリーを増やすことに加えて、同じ課題を簡単にしたり、本人の生活に寄せたりできると、選びやすくなりそうです。

失語症への苦手意識は、実は私にもあります。目に見えない症状なので難しいからこそ、「この方は何があると伝えやすいのか」を、一つずつ見つけていきたいです。

関連する記事と学習方法

評価と課題選びを学び直す方法として、オンラインセミナーもあります。扱うテーマや受講条件が、自分の知りたい内容に合うか確認して選んでください。

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参考資料

資料確認:2026年9月15日。研究の結果と、本記事で考えた課題例は区別して記載しています。