「最近、◯◯さん、また痩せたな…」 「リハをやっても、元気がどんどん落ちていく気がする」 「このまま訓練を続けていいのかな…?」
リハ特化型デイサービスで働いていて、こう感じる瞬間ってありませんか?
私も今、まさにそんな利用者さんを担当しています。 体重が減って、活気がなくて、栄養補助飲料のエンシュアと卵の黄身しか食べられない方。 正直、「リハをやればやるほど痩せていくんじゃないか」と本気で不安になります。
この記事では、現役STとしての私の現場の悩みを軸に、 「低栄養の利用者さんにリハをどう組み立てるか」 を、ガイドラインと実体験の両方から本音で書きました。
【結論】「悪影響かも」と感じたら、それは正しい直感
先に結論からお話ししますね。
痩せて元気のない利用者さんにフルパワーのリハをかけると、 筋肉がさらに削られて逆効果になることがあります。 これは「リハ栄養」という分野できちんと指摘されていることで、現場の直感と一致しています。
💡 リハ栄養って何?:簡単にいうと、 「栄養が足りていない人にリハをかけると、筋肉がエネルギー源として分解されてしまう」 という考え方。日本リハビリテーション栄養学会が中心になって広めてきた概念です。
つまり、 「この人にリハしていいのかな?」というあなたの違和感は、医学的にも理にかなっているということ。
大事なのは、続けるか止めるかを一律に決めず、その日の状態に合わせて内容や目標を見直すことです。 必要に応じて休止も含め、主治医や管理栄養士、リハビリ担当者と相談します。
参照元:「栄養ケアなくしてリハなし」リハビリテーション栄養の総論 — 慢性期.com
【現役ST体験】デイで担当する「明らかに痩せていく利用者」のリアル
私が現在勤務しているリハ特化型デイサービスで、ここ数ヶ月ずっと頭を悩ませている利用者さんがいます。
属性をぼかしてお話しすると、 80代の在宅高齢者。 体格はもともと小柄でしたが、来所のたびに「また痩せたな」と感じる方です。
食事内容を伺うと、 半熟卵の黄身と、栄養補助飲料のエンシュアがメイン。 ほぼそれしか口にできない日もあるそうです。
問題はそれだけじゃありません。 食事中に 鼻から逆流してくることがあって、声も ガラガラ声(湿性嗄声)。 これは咽頭に唾液や食物残渣が残っているサインで、誤嚥リスクが高い状態です。
来所時の表情は、 疲れ切っていて、笑顔がほとんどない。 リハ室の椅子に座っていても、5分もすると目線が下がってきます。
そんな方に、 私は本当にリハをかけ続けていいのか? これが、毎週ずっと自分に問い続けている問いです。
正直、答えは出ていません。 でも、 「強度を落としつつ、誤嚥を防ぐ最低限の訓練は続ける」 という方向に、今は寄せています。
その判断の根拠を、次のセクションから順番にお話ししますね。
なぜ「リハするほど痩せる」が起きるのか|リハ栄養の基本

そもそも、なぜ栄養が足りない人にリハをすると痩せるのでしょうか。 答えは 「エネルギー収支」 という考え方にあります。
私たちの体は、 食事で取ったエネルギー(摂取)と、消費するエネルギー(基礎代謝+運動)のバランス で成り立っています。
💡 エネルギー収支って?:シーソーをイメージしてください。 摂取側が重ければ太り、消費側が重ければ痩せる。シンプルですが、これがリハ栄養の出発点です。
ここでリハをかけると、消費側がさらに重くなります。 すると体は、 足りないエネルギーを「筋肉のタンパク質」から調達 し始めます。
これが 筋蛋白の異化亢進 と呼ばれる現象です。
💡 異化(いか)って?:体の組織を分解してエネルギーに変えること。栄養が足りないとき、体は脂肪より先に 筋肉を削る ことがあります。
つまり、エネルギーが足りない状態でリハを続けると、 「鍛えるはずの筋肉を、リハで削っている」 という本末転倒なことが起きてしまうわけです。
リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版では、低栄養改善期に 1日あたり200〜750kcalの上乗せ を推奨しています。 栄養管理とリハビリの内容は、病状や栄養状態を踏まえて一緒に検討します。この記事の数値だけで栄養量や運動量を決めないでください。
参照元:リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版 — Minds
栄養評価の指標|GLIM基準とAWGS2019

「この人は低栄養なのか?」「サルコペニアなのか?」を判断するには、世界共通の基準があります。
ひとつは GLIM基準(グリム基準)、もうひとつは AWGS2019(アジア・ワーキング・グループ・フォー・サルコペニア2019) です。
💡 GLIM・AWGSって?:GLIMは「低栄養」を診断する世界基準、AWGSは「サルコペニア(筋肉が減って力が落ちる状態)」をアジアの体格に合わせて診断する基準です。
GLIM基準(低栄養診断)
GLIMでは、まず栄養リスクを確認します。そのうえで、次の現症(体の変化)と病因(原因)から、それぞれ1項目以上を基準に沿って評価します。
現症(体の所見):
- 体重減少(6ヶ月で5%以上など)
- 低BMI
- 筋肉量の減少
病因(背景):
- 食事摂取量の低下
- 疾患による負荷・炎症
食事量の低下や意図しない体重減少は、低栄養を疑う大切なサインです。 ただし、「食べる量と体重が減った」という情報だけでは診断を確定できません。減少の程度や期間などを確認し、医師や管理栄養士などにつなげます。
AWGS2019(サルコペニア診断)
AWGS2019で素晴らしいのは、 特別な機械がなくてもスクリーニングできる ところ。
- 握力(男性28kg未満/女性18kg未満で低下)
- 5回椅子立ち上がりテスト(12秒以上で低下)
このどちらかでも当てはまれば、サルコペニアの可能性が高いと判断します。
参照元:サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019発表) — 日本サルコペニア・フレイル学会
デイサービスで使える評価|血液検査なしでもできること
ここで現実問題にぶつかります。 デイサービスでは血液検査ができません。
医療機関じゃないので、アルブミン値もCRPも測れないんですね。 じゃあ何もできないのかというと、 そんなことはないんです。
私が現場で使っている評価指標は、 「フィジカル評価+食事ログ+表情観察」 の3点セットです。
フィジカル評価:
- 体重(毎回ではなく、月1〜2回でOK)
- 皮膚のハリ・乾燥具合
- 浮腫の有無
- ふくらはぎの細さ(指輪っかテスト)
食事ログ:
- 「昨日の夜、何食べました?」を毎回聞く
- ご家族や送迎担当に確認
- エンシュアの本数も把握
表情観察:
- 来所時の目線
- 笑顔の有無
- 椅子で背中がどれくらい丸まっているか
- 受け答えのスピード
食事量や表情、疲れ方の記録は、いつもとの違いを医療職へ伝える手がかりになります。 ただし、それだけでリハビリの実施や中止を決めることはできません。担当の医療職が、病状や症状、必要な測定値などを合わせて、その日の内容を検討します。
参照元:急性期リハビリの中止と安全管理に関する研究(急性期施設の研究であり、在宅や嚥下訓練に同じ中止基準をそのまま当てはめるものではありません)
特に大事なのは 食事ログ。 ご家族にお願いして、 3日間でいいので食事内容をスマホで撮ってきてもらう だけでも、食べられた内容や量を医療職と共有しやすくなります。
家族向けの栄養補助として、 管理栄養士監修の冷凍宅食 を提案するケースもあります。
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ご家族が「何を食べさせたらいいか分からない」と困っているとき、 塩分・カロリー・タンパク質が計算済みの宅食 は強い味方になります。
参照元:摂食嚥下障害:栄養とリハビリテーション — 国立長寿医療研究センター
運動強度の考え方|Borg指数・短時間・休憩多め

低栄養の方にリハをするとき、 「どこまで負荷をかけていいか」 が一番悩むところですよね。
ひとつの目安が Borg指数(ボルグ指数) です。
Borg指数は、運動中の「きつさ」を本人が6〜20の数字で表す目安です。「楽である」が11、「ややきつい」が13です。0〜10の修正Borg尺度とは異なります。
11〜13が運動強度の目安になる場合もありますが、この数値だけで安全とは判断できません。体調や病状、運動中の反応を確認し、担当の医療職と相談して負荷を調整します。
心血管疾患のガイドラインで用いられる目安を、低栄養の方や嚥下訓練すべての共通基準にはできません。
参照元:日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会のガイドライン
そのうえで、時間・運動の種類・目標を個別に検討します。以下は私が意識する点で、どなたにも共通する処方ではありません。
1. 短時間×複数回 連続して行うことにこだわらず、疲れ方や回復の様子に合わせて時間と休憩を調整します。
2. 運動の種類も個別に選ぶ 力を入れたまま止める運動も含め、方法だけで「低負荷で安全」とは決められません。病状や運動中の反応を踏まえて選びます。
3. ゴールを「機能改善」から「機能維持」へ切り替える これが一番大きい判断です。 「もっとできるようになろう」じゃなくて、 「今ある力を守ろう」 に頭を切り替える。
家族にもST本人にも、 「ゴールを変えました」と明示的に伝える ことが大事です。 何となく強度を落とすだけだと、利用者さんも「やる気がない人」と見られてしまうので。
【現役ST体験】私が今の職場で実際にやっているリハ
ここで、具体的に私が今やっているメニューを公開しますね。 全部、 「短時間×低負荷×休憩多め」 で組んでいます。 以下は個別の実践例です。同じ回数・時間が他の方にも合うとは限らず、実施や中止は担当の医療職と相談して決めます。
口腔機能訓練(MPTSSE系の応用)
開口持続:5秒キープ×5セット 口を大きく開けたまま5秒止める。これだけ。間に30秒の休憩を必ず挟みます。
舌突出:5秒キープ×5回 舌を前に出して止める。出すスピードは「ゆっくり」でOK。
舌の左右運動:5秒キープ×交互 左に出して5秒、右に出して5秒。これも休憩多め。
💡 MPTSSE系って?:開口・舌突出・舌側方など、 嚥下に関わる筋肉を直接動かす訓練群 の総称です。短時間でも継続すれば嚥下機能の維持に役立つと言われています。
構音訓練(短時間で効く音を選ぶ)
「に」「じ」の音を意識した発声練習 舌の前方〜中央の動きを引き出す音です。「にじ・にじ・にじ」とゆっくり3回。
「か」行の構音アプローチ 舌の奥を持ち上げる訓練。「か・き・く・け・こ」をゆっくり1セット。
これらを 間に休憩を入れながら、合計15〜20分以内 で終わらせます。 昔の私だったら30分かけてフルメニューを組んでいましたが、 今の利用者さんには絶対無理。
「物足りないかも」と思うくらいで、 ちょうどいいんです。
栄養補給の選択肢として、利用者さんやご家族には やわらかい嚥下対応食 の選択肢もお伝えしています。
エンシュアだけでは満腹感が出にくく、 「食べた気がしない」と心が萎える 利用者さんも多いんですよね。 柔らかくて見た目がきちんと料理になっている食事 は、食欲の維持にも効果があると感じます。
なお、嚥下評価の細かい話は別記事にまとめています。 在宅嚥下の利用者をVF/VE外来検査につなぐタイミング もぜひ参考にしてくださいね。
参照元:摂食嚥下障害のリハビリテーション — 公益財団法人長寿科学振興財団
【最重要】急性期vsデイサービス:多職種連携の壁

ここからが、 この記事で一番伝えたい部分です。
私は急性期病院で9年働いてきました。 その間、栄養が足りない患者さんがいたら、 NSTチーム(栄養サポートチーム) に相談すればすぐ動いてくれました。
💡 NSTって?:Nutrition Support Team(栄養サポートチーム)の略。 管理栄養士・主治医・PT・OT・ST・薬剤師・看護師 が一つのチームになって、患者さんの栄養介入を多角的に検討する仕組みです。
主治医がカロリー計算をして、薬剤師が経腸栄養剤を調整して、PTが運動量を見直して…と、 チームで決めていたんですね。
私一人で「リハの強度どうしよう」と悩むことは、ほぼありませんでした。
ところがデイサービスに来た瞬間、世界が変わります。
デイには 管理栄養士がいないことが多い。 PT・OTはいるけれど、 施設によっては「リハ職同士で栄養を相談する文化」がない。 主治医は外部のクリニックだから、 直接相談する機会が少ない。
結果、 「ST一人がケアマネに相談する」 くらいしか動きようがないことが、本当に多いんです。
これが、現場の現実。
「ケアマネさんに伝えたら、ご家族と話してみますと言われて、そこで止まる」みたいなことが普通にあります。
だから私は最近、 「強度を落とす判断をした時点で、ケアマネ宛てに必ず一筆書く」 ようにしています。 口頭だと流れてしまうので、 記録に残す ことを意識するようになりました。
私も、個人でリハノメの嚥下に関する動画を見たことがあります。
仕事で使える内容があったのはもちろん、「現場で悩むことを分かってもらえた」と感じられたのもよかったです。
嚥下の支援で迷っているSTさんは、自分の知りたいテーマの講座があるか、確認してみるのもいいと思います。
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申し込む前に、見たい講座がプランの対象か、契約期間・総額・自動更新・解約条件を公式サイトで確認してください。
参照元:摂食嚥下障害のリハビリテーション — 日本リハビリテーション医学会
なお、急性期病院のST環境について詳しくは 病院ST完全比較 もご覧くださいね。
【FAQ】よくある質問
低栄養+リハについて、現場でよく聞かれる質問にまとめてお答えします。
Q1:リハを完全に止めるべきですか?
一律には決められません。活動が減ることによる機能低下にも配慮しながら、病状や症状に応じて休止が必要かを検討します。 嚥下訓練も、食事量やBorg指数だけで続行を決めず、担当の医療職とその日の内容を相談してください。
Q2:体重◯kg以下はリハ禁忌、みたいな基準はありますか?
明確な数値基準はありません。
BMI18.5未満は低体重とされますが、 「ここからリハ禁忌」というカットオフ値を明示した公開ガイドラインは2026年5月時点では見当たりません。 個別ケースごとに、主治医・管理栄養士と相談して判断する領域です。
Q3:エンシュアだけで栄養は足りますか?
エンシュア1缶(250ml)で約250kcal、タンパク質約8.8g。
1日3缶飲んでも約750kcal。 高齢者の必要量(体重×25〜30kcal)に対して、 明らかに不足 する方が多いです。 固形物の摂取量と合わせて、主治医・管理栄養士に相談を。
Q4:主治医にどう伝えればいいですか?
「体重◯kg減・食事量◯割・Borg◯・本人疲労感あり」 のように、 数字で伝える のがコツです。
「最近痩せました、元気ないです」だけだと動いてもらえないことが多いので、 具体的な観察値をセットで 伝えてくださいね。
Q5:デイのSTがNST的に動くにはどうすればいいですか?
まずはケアマネと管理者を巻き込むこと。
- 月1回、 「栄養ハイリスク利用者リスト」 をケアマネに提出
- 管理者会議で 「リハ栄養」を議題にしてもらう ようお願いする
- 外部の管理栄養士(居宅療養管理指導など)の活用を提案
一人で抱え込まないことが大事です。
関連記事:高齢者の食欲低下と嚥下の関係 も参考にどうぞ。
【記事下CTA】ST転職・スキルアップを本気で考える方へ
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
「デイサービスでもっとちゃんと栄養とリハを学びたい」 「今の職場ではリハ栄養を実践できない、転職を考えたい」 そう感じる方も多いのではないでしょうか。
私自身、急性期病院 → 3年ブランク → 現在のデイ勤務、というキャリアを歩んできました。 職場によって、できるリハの幅は本当に大きく変わります。
リハ栄養を体系的に学びたい方には、オンラインセミナー:
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転職を考えている方には、ST特化求人サイトもあります。
(PR)リハ特化型デイの仕事内容については リハ特化型デイサービスガイド もぜひ。
まとめ
最後にこの記事の要点をまとめますね。
- 痩せて元気のない利用者にフルパワーのリハをかけると、 筋肉が削られて逆効果になることがある
- GLIMによる低栄養評価は、食事量と体重の変化だけで断定せず、程度や期間などを基準に沿って確認する
- 体重・食事ログ・表情観察 は変化を伝える手がかり。検査や医療職の判断の代わりにはしない
- Borg指数だけで安全を判断せず、体調・病状・運動中の反応を合わせて内容や負荷を調整する
- ゴールを 「機能改善」から「機能維持」に切り替える 判断が現場には求められる
- 急性期と違ってデイは 多職種連携が乏しい。ST一人が抱え込まずケアマネ・管理者を巻き込む
「リハするほど痩せる」気がする…という直感は、現場のあなたの大事なサインです。 迷ったときは一人で実施可否を決めず、気づいた変化を医療職と共有し、栄養とリハビリの両面から相談してください。
※本記事は私個人の経験と公開情報を元にしたものです。リハビリ強度・栄養管理は施設・地域・個人の状況によって変動します。具体的な医療判断は、ご自身の状況に合わせて主治医・管理栄養士・リハ栄養に詳しい専門医にご相談くださいね。本記事の内容をもって生じたいかなる結果についても、責任を負いかねます。
著者:うめあかり プロフィール:言語聴覚士(ST)。急性期病院で9年勤務後、現在はリハ特化型デイサービスで勤務中。2児(5歳・3歳)の母。摂食嚥下とリハ栄養の話を、家族・現場目線で発信しています。



